それは、その場にいる誰もが思った事だった。
 それの行動は、『魔女』たるに相応しくない、と。

 魔女と言えば――
 赤子の屍から魔法の軟膏を作り、箒に跨り空を飛ぶ。
 大釜で怪しげな薬を作り、人々を呪い貶める。
 悪魔と饗宴を催し、淫らな行いにふける。

 そういうものだと思われていた。
 まさか、魔女が歩兵のように突撃し、八面六臂の立ち回りを見せるなど――
 その場にいる誰もが、思ってもいなかった。

 細い足から伸びる四つの布が、変幻自在に村人を捕らえる。
 まるで命があるかのように蠢く布は、四人ずつ村人を絡め取る。
 動きを奪って、それから――
 魔女は、先の尖った杖で、男を、女を、突き刺していく。

 否、刺してはいない。
 突いているだけだ。
 だが、それだけで、たったそれだけの事で、村人は次々と昏倒していく。
 血も流さず、死ぬ事も無く、ただ眠るだけ。
 それは魔法のよう、と言えば魔法のようだったかもしれないが――
 牧師が思うに、それはただの体術だった。
 そんな分析をしていると、いつの間にかその場で無事なのは、牧師一人。
 慌てた牧師は、身を翻して一目散に逃げようと――

「おい。おい待てよコラ自称異端審問官殿」
 逃げられないのは、彼の足に、布が絡まっているから。
 どう見ても20フィートは離れていると言うのに、それは牧師を捕らえていた。
 自由自在に動くどころか、伸縮すら自在。
「自分も異端審問にかけられそうな立場の人間が、いやはや恐れ入る」
 牧師は、牧師である。神父ではない。プロテスタントなのだ、彼は。
 だから、大陸にいたならば教皇庁からの異端審問は免れまい。
 そういうモノなのだ、彼は。
 恐る恐る、牧師は振り返る。
「そこらのおっさんおばさんは眠ってるだけだ、三日もすれば目を覚ます」
 魔女の眼は、炎に照らされて、不気味に輝いている。
「だが――首謀者にはちょっとキツイお灸を据えなきゃな?」
 にっこりと、にっこりと魔女が笑うのを、牧師は見ている。
 それは年端も行かない少女のそれで、実に、実に可愛らしい。
 しかし、眼が笑っていない。
「じゃあ、ぶっとばされろ」

 牧師は、散々ド突きまわされ、向こう一週間足腰が立たなくなる羽目になる。
 だが、一切の外傷が無かった上――
 自分の娘ほどの少女にあしらわれたとあって――
 彼が調書に虚偽の報告を書いたのは、当時でなくとも当然であったろう。


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