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 誇り高く声高に叫ばれたその怒声が、炎を散らした。
 声の主が、火を消したのだ。
 消したと言うよりは、ぶち壊した。
 木々の上から、燃え盛る炎の中に落ちて来たのだ。
 薪は辺りに散乱し、ただ小さな火を従えるのみとなる。
 何時の間にか磔の少女は十字架から降ろされ、腰を落としていた。
 少女の眼前には、炎よりも尚赤い、赤い闇が立っていた。
 仁王立ちである。
 まるで道化のような姿で、だが高潔な王のように立っている。

「寄って集って年端行かぬ娘を嬲るのが、貴様等の言う救いか?」
 少女は、赤い闇の後姿だけで、それが怒っているのが分かった。
 ものすごく、怒っている。
              アルトス
「こんな民じゃあ、かの熊の王だって見放すわな」  
 ようやく周囲がざわめき始めた。
 何が起こったのか理解できない村人。
 何を言われているのか理解できない牧師。
「これでは再来はあるまい。貴様等なんぞ率いたところで、古きブリテンが復活するわけ
もない」
 困惑する牧師は、わけがわからないと言った顔をする。
 だが、今言うべき言葉だけは、何とか口から出た。
「何だ…お前は!」
 それだけが、この場で発する事を許された言葉。
 この、道化のように王のように絶望を従え怒声を上げた闇は、何者か。

 ――闇が、応えた。

「我は」
 ざわり、と赤い闇が形を変える。
「常に追われ」
 足に巻きつけた布が、解ける。
「常に終わり」
 全部で四つの帯に分かれた布が、生き物のように宙に踊る。
「人と人との間を、礫を投げられながら歩くモノ」
 その姿は、まるで異形の魔物である。
「絶望を招き、絶望を終焉に導くモノ」
 四つの帯が、鞭のように、空気を切り裂く。
「人の絶望を一身に背負い、闇の彼方に消えるモノ!」
 そこまで言われて――ようやっと牧師は気付いた。
 それは、神職ならば誰もが一度は聞いた事のある、悪い冗談。
 それは、神に仇成す、異端の中の異端の噂。
 牧師は、恐怖とともに、憎悪とともに、その名を呼んだ。
「お前は――ワルプルギスの――魔女!」

 にやりと口を横に裂き、赤い影は凄絶に笑む。
「さあ、ぶっとばすぞ?」

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