
倫敦から少し離れた――人の足で丸一日かかる距離。
煙が空を覆う。
広場には、肉の焼ける匂いが立ち込めていた。
火が、焚かれていた。
咎人を焼く、火が。
杉で組んだ粗末な十字架に磔にされ、咎人が焼かれる。
咎人――少女の胸には、十字が縫い付けられている。
罪人の証だ。
罪人は、その十字の数だけ贖罪しなければならない。
一代で足りなければ、三代に渡ってでも。
この場合、十字は一つ。贖罪は一代で事足りる。
つまり、この、少女の命一つで。
咎人は泣き叫ぶ。
エライエライレマサバタニ
主よ、主よ、何故我を見放したもうか。
古の書の再現である。
違うのは、二つ。
罪状が『ユダヤの王』ではなく、『魔女』だと言う事。
磔になっているのは、少女だと言う事。
魔女裁判と言うものの厄介な所は、二つある。
異端審問官は、一部を除いて、熱心で敬虔な信者である。
そのため、彼らは本気で咎人を救うために、それをする。
死後、彼らの魂が救われるように、十字にかけて燃やすのだ。
だから如何なる拷問も、彼らは本気で親切心から行う。
もう一つ、この時代の村人と言うのは無知にして嫉妬深い。
おまけに疑い深く、他人より自分が一番である。
だから、些細な事で――本当に些細な事で、少女を謗る。
その結果、少女がどうなるかを知りながら。
少女の体は最早、足まで焼けている。
もう感覚などとっくにない。
少女は泣いた。
何故だろう、何故自分が焼かれているのだろうと。
つい数刻前まで行われていた拷問は、すっかり忘れていた。
今、主に見放されようとしている事の方が余程重大だから。
ホワイホワイホワイ
何故だろう何故だろうとそれしか考えられなくなった頃。
闇が、絶望を伴って、怒りの声をあげた。
やめねぇかぶっとばすぞこのくそったれ、と。